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快眠コラム

実際にあった睡眠談

睡眠豆知識
川口 祐司 先生
南大阪病院 内科副部長 睡眠センター長
川口 祐司 先生

~睡眠時無呼吸症候群の適切な治療で笑顔が戻った患者さんの話~

今回お話するのは大阪の企業にお勤めの47歳男性の患者さん(Aさん)の話です。睡眠時無呼吸症候群と聞くと、肥満の方をイメージするかもしれませんが、体格は長身でむしろ痩せています。東京への出張が多く、週末だけ大阪に戻られます。仕事は忙しかったのですが、睡眠時間はきっちりと確保することを心掛けていました。しかし、『なんぼ寝ても眠い』という症状が現れてきました。


一般的に眠気を訴える方は多いのですが、仕事の疲れだろうとそのままにしておく方も多いです。睡眠時無呼吸症候群は眠気の他に倦怠感、中途覚醒、不眠により仕事の効率が落ちます。不整脈や高血圧、心筋梗塞、脳卒中を起こす危険性も3-4倍高くなります。高血圧の薬を飲んでも目覚めた時の血圧が高い方は要注意です。


眠気が取れないAさんは40歳の時に睡眠時無呼吸症候群の診療を行っているクリニックを受診しました。問診およびパルスオキシメーターによる簡易検査から睡眠時無呼吸症候群が疑われたため、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)をしました。結果はAHI(睡眠1時間当たり10秒以上の息が止まっているまたは止まりかけている回数)が23.7回/時間と治療が必要な数値でした。早速CPAP治療(経鼻的持続陽圧呼吸療法)が開始され、Aさんは『これで眠気はおさらばや』と期待しました。CPAP治療はマスクを介して持続的に空気の圧をかけることで狭くなった気道を広げる治療です。


CPAP治療を開始したAさんですが、一向に眠気は治りませんでした。通院しているクリニックでそのことを伝えたところ、治療効果をみるためにCPAPをつけながらPSG検査をしました。結果はAHIが1.0回/時間と 正常の数値に改善していました。良くなっているとの説明に眠気の取れないAさんは納得しませんでした。クリニックの先生は「数値は正常だから大丈夫」と言いましたが、その対応に不満を持ったAさんはCPAP治療をすぐにやめてしまいました。


44歳になったAさんの仕事はその後も大阪〜東京を行ったり来たり。単身赴任でしたが大阪に戻った時に奥さんに『いびきがうるさい、一緒に寝られへん』と厳しい一言。もう一度治療を受けてみようと当院の睡眠センターに奥さんと一緒に来院されました。前のクリニックのPSG検査の結果を見せてもらいCPAP治療がしっかりと効果が出ない原因がわかりました。確かにAHIは正常となっていましたが眠りの深さが浅くなっていました。つまりCPAP治療の設定が合っていなかったのです。CPAP治療では設定の圧が高すぎることや治療に使用するマスクに違和感を覚えることが多くあります。最初は毎日CPAPをつけようとせずに1日おきに4時間程度装着してもらい慣れることが重要です。


当院で行ったことは、まずは低い圧設定にすること、マスクを鼻と口を覆うフルフェイスマスクから鼻だけを覆うタイプに変更することです。細かく調整を行って再度PSG検査をしてみました。AHIは0.0回/時間、そして深い睡眠もきっちりと出ていました。奥さんは大変喜び、『この人の笑顔を久しぶりに見たわ、これからも仕事頑張ってや』と、Aさんの元気な姿に安心されました。 皆さんの中にも寝ているのにすっきりしないという方は多いと思います。悩んでいる方は睡眠時無呼吸外来を実施している医療機関に相談に行ってください。笑顔が戻りますよ。