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SASとは SASが招く損失

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、生命に影響を及ぼす病気の合併リスクが高いばかりではなく、交通事故の危険性を高める、集中力を欠くことで仕事の効率が下がるなど、患者さんの生活に及ぼす社会的な影響が大きい病気です。

合併症

SASは、高血圧や2型糖尿病などの生活習慣病と合併しやすい病気です。

SASの患者さんの約50%が高血圧を合併しているといわれています※4。SASがあると、身体は寝ている状態でも、無呼吸から再び呼吸が始まるときに脳が起きた状態になります。通常、就寝中は脳がリラックスした状態にあり、副交感神経が働いていますが、無呼吸を繰り返すごとに脳が目覚めて交感神経の働きが活発になります。また、無呼吸と呼吸の状態が細胞を酸化させてしまう、酸化ストレスによる影響を受け、血管が傷つきやすくなります、それが血圧を上昇させる要因となります。とくにSASがある人は、夜間や早朝に血圧が上がりやすく、血圧を下げる薬を飲んでも血圧が安定しにくいのが特徴です。SASに対するCPAP治療を行うことで、高血圧の薬の効果が出やすくなることがわかっており、治療の相乗効果が期待できます。

SASと糖尿病は、ともに肥満や加齢が発症リスクとなっており、糖尿病患者さんのSAS合併率は65%にのぼるという報告もあります※4。SASがあると年齢や肥満の有無にかかわらず糖尿病になりやすく、SASによる低酸素状態が末梢神経障害や眼症など、糖尿病合併症の発症リスクになる可能性も指摘されています。

また、肥満はSAS発症の最大のリスク要因となっており、複数の生活習慣病を合併している人も少なくありません。

SASがあることで、さまざまな生活習慣病のリスクが高まるだけでなく、SASを放置していると、生活習慣病の治療をしても十分な効果が得られないことがあります。

生活習慣病の人の多くは、血管が硬くなる動脈硬化が進行します。とくにSASがある人は、睡眠中の無呼吸、低呼吸によって一時的な低酸素血症になり、細胞の老化や体内の炎症反応が起こりやすくなります。それが動脈硬化を促進する要因になるといわれています。

動脈硬化が進むと、心機能の低下を招き、心不全を発症するリスクが高くなります。また、心不全の患者さんがSASを合併することで、心不全が悪化しやすくなるといわれています。

交通事故

SASが社会的な問題として取り上げられることが多い理由に、交通事故を起こすリスクの上昇があげられます。SASがある人は、そうでない人に比べて交通事故のリスクが約2.4倍になるという報告があります※1

中等症のSASがある人は、血中アルコール濃度が0.04g/dL程度の飲酒状態よりもハンドルを握っているときの反応が悪いという報告があります。SASがある人の運転は、一般人の法定の飲酒運転基準(血中アルコール濃度が0.08g/dL以上)と同じレベルの危険性があるといわれています※2

SASによる交通事故は、居眠り運転によるもので、重症度が高いほど、短期間に複数回の事故を起こすといわれています。なかでも、ひとりでの運転、高速道路や郊外の直線道路の走行中、渋滞で低速走行中などに居眠り運転による事故が発生しやすくなります。

実際にSASと診断され、CPAP治療を受けた患者さんでは、事故リスクが軽減するという報告があります。眠気や疲労感がある、不注意による交通事故や運転中にヒヤリとした経験がある人は早期に治療を開始することが重要です。

経済と産業の損失

睡眠障害は、心身への影響だけでなく、労作時のミスの増加、事故リスクを高めることがわかっています。睡眠の問題に関する事故などによる経済損失は、6兆円にのぼると推計されており、SASもその大きな要因のひとつです※3

睡眠障害による日中の眠気が交通事故だけでなく労働災害や産業事故につながった事例も多く、生命が失われるだけでなく、その損害賠償や環境汚染なども含めた損失は膨大なものとなります。こうした経済・産業の損失を防ぐためにも、SASをはじめとする睡眠障害は、社会的な取り組みが求められる病気だといえるでしょう。

SASを含む睡眠に関連する症状、病気が関与したとされる主な事故

1979年
アメリカ・スリーマイル島原子力発電所事故
1986年
スペースシャトルチャレンジャー号爆発事故
1986年
旧ソビエト・チェルノブイリ原子力発電所爆発事故
1989年
アラスカ沖タンカー座礁事故
1995年
スター・プリンセス号座礁事故
2001年
アメリカミシガン州列車衝突事故
2003年
JR山陽新幹線居眠り運転事故
2012年
関越道高速ツアーバス衝突事故
2012年
首都高速湾岸線トラック追突事故

引用・参考資料